橋本努著『経済倫理=あなたはなに主義?』講談社メチエ2008年8月刊行
への書評
二択の配列から探る立ち位置
評者・間宮陽介
『日本経済新聞』2008年9月28日
Book Reviews 目利きのお気に入り
経済思想を自己分析するという逆転の発想で売れ行き好調
評者・平井直子 = ブックファースト渋谷文化村通り店リーダー
『週刊ダイヤモンド』2008年9月27日 103頁
血液型別の『自分の説明書』が売れに売れ、書店経営には干天の慈雨になっていますが、人というのは自己分析が大好きなのだなとあらためて認識させられます。それは、『経済倫理=あなたは、なに主義?』の、選書としては例外的な売れ行きからも感じます。
珍しいタイプの本です。そしておもしろい。著者は経済思想が専門で、読者がどのような経済思想(主義)を持っているのかを自覚できる話題を次々に取り上げます。枠組みとして提示されている主義は、新保守主義(ネオコン)や新自由主義(ネオリベ)、自由尊重主義(リバタリアニズム)、マルクス主義など八つ。そのうえでそれぞれの主義の理論、歴史的な位置づけなどが解説されています。
この分野では思想を解説しただけの本が多いのですが、本書は自分の考え方の基点を解明するという仕掛けが施されていて、経済思想の自己分析本となっています。マスコミ報道に振り回され、右顧左眄しているのではなく、主張の枠組みとしての主義をビシッと自覚できる一冊です。巻末には「イデオロギーを鍛えるための基礎文献」という主義別基礎文献リストもある親切さ。
そして結果、自分は新自由主義にいちばん近いとわかったので興味を持ったのが次の二冊。『ハイエク 知識社会の自由主義』。ハイエクは新自由主義の理論的な支柱ですが、昨年から全集が刊行されるなどブームが起きています。これだけ知識が分散した社会では、権力による計画主義的な統制では社会活力を生み出せず、個々の人間が自立的に活動していくことが最適に向かうとの主張は明快です。
経済の計画性を否定したハイエクに対して、新自由主義でも計量経済学をベースにした制度設計の可能性を追求し、昨年亡くなったのがミルトン・フリードマンです。その生涯を描いた評伝が『最強の経済学者 ミルトン・フリードマン』。徹底した「小さな政府」の志向者ですが、源泉徴収制度をつくった人とは知りませんでした。 ちなみにケインズ関連の書籍も文庫を中心に売れるようになっています。政治的混乱が続くなか、自らの足場を見つめ直そうとする人たちが増えているのかなと喜びつつ。(談)
本書がリブロ池袋店2008年秋の「人文書フェア」の一冊に選ばれました。
2008年11月
その際のコメントと、拙著の隣に置いていただく本の選定およびコメントです。
橋本努
自著『経済倫理=あなたは、なに主義?』へのコメント
思想は社会変革のためにこそある。批判ばかりしてないで、この現代日本をどうすべきなのか。ストレートに語ろうじゃないか。思想が織りなす豊饒な価値言語の世界へようこそ!
「座右の一冊」
プラトン著『国家』(上・下)岩波文庫へのコメント
ありったけのたくましい空想を働かせて、本当に住みたい社会のビジョンを描いた金字塔。不可能だけれども、考えるだけで「生」が踊り出す。この空想力こそ、小生の思考の源泉。